『血統表から何が読み取れるのか?』その2

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                                 繁殖牝馬の適性を引き出す種牡馬
 

前回は「繁殖牝馬の持つ能力の方向性を変えるため」に種牡馬を選定するという考えがあると書きました。しかし、その繁殖牝馬が既に生産者がつくろうとしている「理想の馬」に近い場合、能力の方向性を変えたくありません。例えば、その生産者が日本で芝のG1レースを勝ちたいと考えていて、現役時代に日本の芝G1レースで実績を残した繁殖牝馬を所有している場合などです。そこで必要になってくるのが「繁殖牝馬の適性を引き出してくれるタイプの種牡馬」です。
 では「繁殖牝馬の持つ能力の方向性を変える種牡馬」と「繁殖牝馬の適性を引き出す種牡馬」とは具体にどの馬で、何を見れば判断できるのでしょうか。
 2018年の種牡馬リーディング1位のディープインパクトと2位のキングカメハメハを比べてみましょう。ディープインパクトは「繁殖牝馬の持つ能力の方向性を変える種牡馬」で、キングカメハメハは「繁殖牝馬の適性を引き出す種牡馬」に該当します。両馬とも現役時代には日本の芝レースで活躍し、ダービー馬になったという共通の経歴を持っていますが、父としての活躍ぶりは違ったものになっています。

 2018年に行われた全レースを通して産駒が獲得した賞金は、ディープインパクトが1位、キングカメハメハは2位でしたが、ディープインパクト産駒が総獲得賞金66億5221万円のうち62億5918万円(約94%)を芝のレースで獲得したのに対し、キングカメハメハの産駒は総獲得賞金34億7089万円のうち、芝のレースで獲得したのは22億0146万円(約63%)となっております。このことから、ディープインパクトはダート向きの繁殖牝馬と交配しても「繁殖牝馬の持つ能力の方向性を変える」特性により産駒は芝向きになりますが、キングカメハメハはダート向きの繁殖牝馬と交配すると「繁殖牝馬の適性を引き出す」特性により、産駒をダート向きにしていることが分かります。このように、『産駒全体における獲得賞金や勝ち星のうち、芝またはダートのシェアはどれぐらいなのか』を見るとタイプ分けができます。
 また、ディープインパクトはダート種牡馬Storm CatVice Regent系)やDanzigを内包している繁殖牝馬との交配で芝のマイル~中長距離のG1馬を輩出することが多いのに対し、キングカメハメハは芝のレースで実績を残した繁殖牝馬との交配で芝のマイル~中長距離のG1馬を出すことが多くなっております。これには「日本の芝レースはサンデーサイレンス系に有利であり、現役時代に芝レースで実績を残した繁殖牝馬も当然サンデーサイレンス系ばかりであるため、サンデーサイレンス系であるディープインパクトは交配できないが、サンデーサイレンスの血を持たないキングカメハメハは交配できる」という事情も絡んできますが。それに関しては、また次回以降。しかし、もしディープインパクトが「繁殖牝馬の適性を引き出すタイプ」の種牡馬なら、産駒の活躍する場はダートや短距離のレースに偏るはずです。実際はそのようになっていませんし、むしろ産駒は中長距離で活躍していますから、やはり「能力の方向性を自分寄りにシフトさせるタイプ」といえます。

 「繁殖牝馬の適性を引き出すタイプ」に分類される種牡馬キングカメハメハがそうであるようにミスタープロスペクター系に多く見られます。キングカメハメハ産駒で現役時代はスプリント~マイル路線でG1を6勝し、現在は種牡馬として活躍しているロードカナロアや、アメリカから輸入された種牡馬ダンカークなどは「繁殖牝馬の適性を引き出す」ことで種牡馬として成功しています。ロードカナロア繁殖牝馬スピニングワイルドキャットの持つスピード要素を引き出すことで、スプリント界の次世代エース「ダノンスマッシュ」を出したり、現役時代にエリザベス女王杯を制したフサイチパンドラの中長距離適性を引き出すことで、三冠牝馬「アーモンドアイ」を輩出しています。ダンカークは、現役時代ダートで活躍しましたが、ダイナカール牝系でキングカメハメハを父に持つ繁殖牝馬から芝適性を引き出し、中山芝2000mのコースレコードを更新した「シークレットラン」を輩出しています。

 どちらのタイプの種牡馬も魅力的ですが、種牡馬として成功するためには「繁殖牝馬の適性を引き出すタイプ」の方が少し有利なのではないかと考えています。
 次回はそのことと、繁殖牝馬についてです!

 

 

 

『血統表から何が読み取れるのか?』その1

 生産者の方は、毎年様々な考えのもと所有されている繁殖牝馬種牡馬を交配されています。

 産駒の仕上がり時期、馬体の大きさ、気性、ツメなど...プロの方は色々な面を考えていらっしゃいますが、その根底には大雑把に『どのような馬をつくりたいか』という考えがあります。血統表には生産者の方の思惑が表現されているといえるのではないでしょうか。

 例えば、柔軟性や瞬発力がセールスポイントのディープインパクトアメリカのダートの名種牡馬ストームキャットフレンチデピュティなど)を父に持つ繁殖牝馬との組み合わせで最も活躍馬を出しています。ダートの名種牡馬は総じてガッチリしている大きな馬格であり、スピード能力やその持続能力に秀でていますが、柔軟性やバネが不足しているため日本の芝では瞬発力負けしてしまいます。これにディープインパクトという柔軟性やバネに秀でた種牡馬を交配することで、『能力の方向をダートから芝へシフトしよう!』『ディープインパクトの瞬発力に優秀なスピード能力が加わるので、他の生産者よりもトップスピードが大きなディープインパクト産駒がつくれるだろう!』といった狙いが読み取れます。

 

明日はより詳しい内容を扱いたいと考えておりますので、よろしくお願いします^ ^

クラリネットの2017(ハーツシンフォニー)

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                  クラリネットの2017

                        血統的な魅力
 私がこの馬を推す理由は、母のクラリネットハーツクライと相性の良い血を内包していることにある。私はハーツクライと、Nasrullah系、Storm Bird系、Roberto、Fappiano系はニックス(相性の良い配合)だと考えている。以下、それぞれの組み合わせから生まれている代表的な活躍馬を紹介する。()内には主な勝ち鞍を記載している。

・母系にNasrullah系:歴代のハーツクライ産駒で、生涯獲得賞金が高い10頭のうち9頭が5代血統表内にNasrullah系の種牡馬を持っている(シュヴァルグランフェイムゲームウインバリアシオンヌーヴォレコルトリスグラシューアドマイヤラクティカレンミロティック、スワーヴリチャード、マジックタイム)。

・母父がStorm Bird系:ウインバリアシオン青葉賞1着、G12着4回)、ゴーフォザサミット(青葉賞)などがいる。

・母系にRoberto:5代血統表内にRobertoを持っている馬は、マジックタイム(ダービー卿チャレンジT)、タイムフライヤー(ホープフルS)、サトノクロニクル(チャレンジC)などがいる。

・母系にFappiano系:代表例はスワーヴリチャード(大阪杯1着、日本ダービー2着)。

 

 本馬の母クラリネットの父Giant's CausewayはStorm Bird系であり、母系にNasrullah系とRobertoも持っているのでハーツクライと好相性だと考えられる。

 本馬の母クラリネットは父Storm Bird系で母父Fappiano系であるが、Storm Bird系とFappiano系の血を内包した繁殖牝馬からは、ラキシスエリザベス女王杯サトノアラジン安田記念)の姉弟(父ディープインパクト)や、デビューから4連勝で3歳マイル王の座を勝ち取ったカレンブラックヒルダイワメジャー)が出ている。また、父Storm Bird系で母父ミスタープロスペクター系と範囲を広げれば、安田記念を制したモズアスコット(フランケル)も該当する。本馬の父ハーツクライは、ディープインパクトダイワメジャーと同じサンデーサイレンス系であるため、こういった繁殖牝馬と合う可能性は高い。
 本馬の母クラリネットディープインパクトの組み合わせで生まれたファゴットが未勝利のまま引退してしまったが、ディープインパクトとの組み合わせで大物を出せなかった繁殖牝馬ハーツクライとの組み合わせで成功するパターンも目にするので、姉が活躍できなかったことは目をつぶってもいいのではないだろうか。

 

 デビューを迎える日が楽しみだ‼︎

 

 

 

ランブリングアレー

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父:ディープインパクト

母:ブルーミングアレー

母の父:シンボリクリスエス

血統的な魅力:本馬の二代前の母プリンセスオリビアディープインパクトとの配合でトーセンラースピルバーグら2頭のG1ウィナーを輩出。

母系にLyphardを持っている馬は、直近10年連続で2歳または3歳時に重賞を制覇している。

ぜひ当ブログ内の【母系にLyphardを持ち、2歳または3歳時に重賞制覇を果たした馬一覧】をご参照いただきたい。

母の父シンボリクリスエスからは、2017年日本ダービーレイデオロが1着、アドミラブルが3着、2017年チューリップ賞2着のミスパンテール、2015年にフローラSを制覇したシングウィズジョイなどの活躍馬が出ている。

デビューから2戦ともマイルを使っているが、アドミラブルもシングウィズジョイも距離を伸ばしてからパフォーマンスを上げたことから、本馬も今後中長距離のレースでの活躍を期待したい。

 

 

母系にLyphardを持ち、2歳または3歳時に重賞制覇を果たした馬一覧

【母系にLyphardを持ち、2歳または3歳時に重賞制覇を果たした馬一覧】

 

2007年産
ペルーサ

2008年産
トーセンラー

2009年産
トーセンベニザクラジェンティルドンナオメガハートランドディープブリランテコスモオオゾラクラレント

2010年産
サウンドリアーナ、クラウンロゼ、ザラストロ

2011年産
タガノグランパショウナンアチーヴ

2012年産
クイーンズリングキタサンブラック

2013年産
ビッシュスマートオーディンシュウジ

2014年産
リスグラシューヴゼットジョリー、アドマイヤミヤビ、レイデオロ、ミッキースワロー、プラチナムバレット、ジョーストリクトリ、キセキ

2015年産
サトノワルキューレ

2016年産
ファンタジスト、ケイデンスコール、ヴァルディゼール

シュリ

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父:ハーツクライ

母:エーゲリア

母の父:ジャイアンツコーズウェイ

 

血統的な魅力:スプリント路線で活躍する本馬の半兄グレイトチャーターは、父がナスルーラ系のサクラバクシンオーハーツクライサンデーサイレンス系の中では、母の父トニービントニービンナスルーラ系)の影響を強く受け、産駒にもそれを遺伝させていることから、母との相性は良いことが推測される。

ハーツクライ×Storm Catの組み合わせから生まれた活躍馬は現時点では数が少なく、青葉賞を勝ったゴーフォザサミットが主な出世頭となっている。

ストームキャット種牡馬であるジャイアンツコーズウェイは、母の父としては芝のリーディング上位種牡馬との組み合わせが現在ではまだ数が少ないため、母の父としてどのような影響を与えるのか楽しみだ。ディープインパクトとの組み合わせでは、音無厩舎のブリッツアウェイ(スウィフトテンパーの2016牝)が既に阪神のマイルで勝ち上がっている。

母系にシーキングザゴールドを持つハーツクライ産駒は秋華賞2着のキョウワジャンヌ、昨年秋にOP入りを果たしたキョウワゼノビア新潟記念ダイヤモンドステークスともに3着のカフジプリンスなどがおり、本馬も中距離以上での活躍が期待される。

 

 

 

グラディーヴァ

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父:ハービンジャー

母:カノーロ

母の父:ディープインパクト

 

血統的な魅力:まずはなんといっても牝系(母の母の母の母...と辿っていく)がエアグルーヴであること。このファミリーからはアドマイヤグルーヴ、その子供のドゥラメンテルーラーシップなどの歴史的名馬が誕生している。

母カノーロは僅か数戦で競争生活引退を余儀なくされたが、新馬戦で父ディープインパクト譲りの豪脚を披露した切れ味タイプ。

種牡馬の世代交代が徐々に進む昨今の生産界において、リーディングサイヤーとして確固たる地位を築き上げたディープインパクトが母の父として今後どのような馬を出してくるか注目が集まる中、菊花賞馬キセキを輩出したように、母の父としても名血として大きな影響を及ぼし続けるであろう。

今年、レース中の故障により命を落としたサトノリュウガと本馬は4/4同配合。クラシック戦線での活躍を期待されていた彼が果たせなかった夢を是非とも叶えてほしい。サトノリュウガの分まで頑張れグラディーヴァ‼︎